QGIS を活用した情報資産管理の取組み

QGIS を活用した情報資産管理の取組み / 倉田進(2020年9月掲載)

1 はじめに

日本政府は、IoT、ロボット、AI等の先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、格差なく多様なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供する「Society 5.0」(超スマート社会)の実現を目指している。

また、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面し、多様な働き方を可能にする「働き方改革」を推進している。

そのような社会情勢中で、ビッグデータの解析など最先端の情報通信技術(ICT)の活用や業務の効率化は大きく期待されているところである。

(一社)農業農村整備情報総合センター(以下、「ARIC」という。)では、GISソフトウェアであるQGISを活用して、土地改良事業に関する各種情報(以下、「情報資産」という。)をGISで地図上に可視化して、管理することにより、情報資産の有効活用や事業管理、施設管理の効率化のため、「情報資産管理システム」を開発してきたところである。

このたび、平成31年3月、「平成30年度近畿農政局所管農業農村整備事業等優良工事等の受注者等の表彰」の表彰式が開催され、ARICが、「平成29年度 大和紀伊平野農業水利事業(二期)大和平野地区施設情報管理システム運用支援他整理業務」の受注者として、近畿農政局長賞を受賞したことは大変名誉なことである(図1参照)。

本稿では、上記業務で構築した「情報資産管理システム」に関し、GISを用いた情報資産管理、大和平野地区を事例としたシステム開発の概要、システムの構成及びシステム導入の効果、今後の展望についてご紹介したい。

図1:近畿農政局長賞の表彰式とARIC への賞状

2 GISを用いた情報資産管理

(1)GISの概要

GISは地理情報システムと呼ばれており、GISソフトウェアは、様々な地理情報を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し高度な分析や迅速な判断を可能にしてくれる便利なツールである。

(2)施設管理上の課題と対応策

事業所等においては、事業完了直前に施設管理等の業務量が急増し、限られた人員・予算の中で引継資料のとりまとめ業務が集中する傾向にある。

その対応策として、着手時から完了時の土地改良区等への引継ぎを見据え、情報資産を地図情報と紐づけて可視化する「情報資産管理システム」を構築することが考えられる。

上記システムを用いることで毎年度資料を整理し、完了間近に引き継ぎ等を効率的に実施することを支援することが可能になると考えている(図2参照)。

(3)QGISの活用

QGISは、ソースコードが公開されており、無償でダウンロードでき、自由に利用、改変、再配布することができる。主要なGISソフトウェアとのデータ互換性があることなどから、有償ソフトウェアと比較すると、高度な機能は必ずしも備えてはいないが、事業関連の資料やデータを整理する用途であれば、十分に利用可能であると考えており採用した。

図2:システムを用いた業務効率化(イメージ)

3 大和平野地区の事例

(1)システム開発の概要

大和平野地区では、QGIS上で稼働するファイル管理ステムを導入した。具体的には、施設管理の効率化や情報資産の有効活用のため、国営事業に関する各種情報を地図上に可視化して管理することが可能となる次の3つの機能(QGISのプラグイン)を有している(システムの画面遷移図とシステム機能要件は、図4参照)。
①施設情報の管理機能
②工事・業務情報(電子納品物)の管理機能
③地区情報の管理機能

さらに、施設の不具合等の報告や補修工事の資料をGIS上の施設等に関連付けて登録し、その資料の閲覧・検索や履歴情報の一覧出力ができる機能を追加した。

(2)システムの構成

本システムでは、機密性の高い情報を含む大量のデータを管理することに適したスタンドアローン方式を採用した(図3参照)。

土地改良調査管理事務所等では、外付けHDDにシステム及びデータを格納し、利用端末のパソコンで利用(閉鎖環境での利用)することを想定している。

土地改良区では、施設管理に使用する頻度が高い図面等はネットワークに接続したハードディスク(NAS)にデータを格納しているため、施設管理担当職員はQGISをインストールしたパソコンからLANケーブルを介してデータ閲覧が可能(一部のデータは所内ネットワークで利用)である。

なお、外付けHDDのシステム及びデータをコピーすることで、容易に関係機関とデータの同期・情報共有をすることが可能である。

(3)地図情報と資料登録

ア.地図情報

GIS 上では、基本となる地図に施設等のレイヤーを重ね合わせて表示することで視覚的に操作しやすい地図画面を構成することが可能である。背景地図と農業水利施設のGISデータは以下のとおり作成した。

①背景地図

施設の位置や周辺環境を可視化する背景地図には、道路整備、開発等による地形変化に適宜対応するため、国土地理院が無償で提供する電子地形図(タイル)、空中写真を用いた。

②農業水利施設のGISデータ

事業で作成した1/2500水路路線図(CADデータ形式)をGIS(shapeファイル形式)に変換して作成した。本システムにおいては、施設 のGISデータに電子ファイルを関連付けて登録することで、見たい資料を素早く確認することができる。

イ.資料の登録

大和平野地区では、事業完了時に膨大な資料(ファイル数約200万個、データサイズ約2.0TB)をシステムに登録した。資料の登録は簡単な操作で可能なため、事業完了時の施設管理者等への資料の引継ぎを見据えてデータを格納するフォルダ構成を検討することで、日々の業務を通じた情報整理が可能となった。

(4)導入の効果

本システム導入後、施設の維持管理業務等の実施にあたり、以下の導入効果が表れ、期待されている。

ア.施設等の位置や関係情報の迅速な把握(将来起こり得る危機管理対応を含む)

①地元関係者からの問い合わせ等に対して、施設や農地の位置及び工事等の情報をパソコン画面上で把握しながらの迅速な対応。
②将来起こり得る大規模地震等災害や突発事故時の迅速な対応。

イ.資料作成への利用

①施設や受益地を表示したGIS地図画面を現地調査用や地元説明用の資料作成に利用。

ウ.関係機関への情報提供

①関係機関の農業振興関連の調査等に際し、施設位置、用水系統等の基本情報の提供。

図3:スタンドアローン方式でのシステムの利用方法(想定)
図4:システムの画面遷移図とシステム機能要件

4 今後の展望

(1)クラウド化

本システムは、情報資産の機密性などの観点から、スタンドアローン方式を採用している。

他方、普段、グーグル・マップなどのWebGIS ユーザーから、手元のスマート・フォンやタブレット端末で、施設の位置情報を確認し現場に向かい、現場で施設の施設情報を確認したいとの意見もある。

そのため、福本(2019)の「Googleマップを用いて構築した水利GIS」の取組を参考に、スタンドアローン型とモバイルGISを組合せた情報登録・共有・公開をしていくことが必要であると考えている。

(2)情報資産(データ)一元化

本システムは、施設情報や電子納品物をGIS上の地図情報と紐づけて保管・管理しているが、既存の「電子納品物保管管理システム」や「農業水利ストック情報データベース(ストックDB)」などへも、システム毎に登録する必要があるため、事業所等職員の作業が複雑かつ煩雑となっている。

そのため、システム毎の登録作業が一元化されるインターフェースの開発、将来的には、情報資産(データ)を一元化していくことが必要であると考えている。

(3)現場での利活用

近年では、西日本豪雨災害で多くの農業土木職員が現地応援に駆け付けた記憶が新しいが、近年の目覚ましいICTの進展から、現場で必要な情報資産を容易に閲覧することが必要であると考えている。例えば、現場に「QRコード」などの「二次元コード」などを設置し、情報資産に容易にアクセスすることができないか。災害時に、現場での判断材料として、施工図面に加え、地質条件や設計思想、施工方法などを確認できないか。そのためにも、上記(1)及び(2)の開発は極めて重要である。

5 おわりに

「Society 5.0」や「働き方改革」を推進していく中で、農林水産省は、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業を実現する「スマート農業」の実現を推進している。
本稿では、大和平野地区の事例を紹介したが、本事例が、「スマート農業」を下支えする農業農村整備事業の推進及びその関係者の業務効率化に資することを期待したい。

また、近畿農政局大和紀伊平野農業水利事務所及び東北農政局和賀中央農業水利事業所の業務受注を得て、関係機関との意見交換を踏まえ、本システムの構築を行うことができたのではないかと考えており、両事業所をはじめ関係者に深く感謝申し上げたい。

今回の近畿農政局長賞の受賞を契機として、今後、農業農村整備事業において、他のデータベースとの連携等による利便性の向上及び作業の効率化や全国展開に向けた取組等、更なる改善や普及啓発動につながることを期待したい。

引用文献

  • 1)今木洋大・岡安利治:QGIS入門【第2版】,pp.24-30(2015)
  • 2)鈴木孝文・有田直樹:QGISを活用した国営事業所における情報資産管理の取組,pp.30-33,No.126,ARIC情報(2017)
  • 3)中司昇吾・池田剛・新井宏巳:国営大和平野地区におけるQGISを活用した情報資産管理の取組,農業農村工学会関東支部大会(2018)
  • 4)福本昌人:Google マップを用いて構築した水利GIS,pp.32-37,No.133,ARIC情報(2019)